2008-05-15 (Thu) [長年日記]
#1 リリカさんについて思い出すこといろいろ
「Ririkaの思い出:「はてなアイドル」の系譜」を読んで、いろいろ思い出して懐かしくなったので、覚えていることを書いてみるよ。以下、archive.org等で調べたことと記憶に頼って書いているけど、記憶が確かじゃないところもあると思うので、間違っているところがあればつっこみ入れてください。
ネット活動歴とプロフィール
リリカさんは2002年11月30日(archive.orgに残っていた関心空間の登録日時による)に最初関心空間に登場し、プロフィールで中3だと言っていたと思う。関心空間は自分の好きな物や事柄をキーワード登録するサービスなのだけど、確かキーワードとして、自分の通っている中学校の校門と制服を掲載していた。それで私には通っている学校が聖心女子学院だということが分かった。私は学生時代聖心女子学院の隣にある寮に住んでいて、校門も制服もしょっちゅう見ていたから。また「鍋島松濤公園 いつものお散歩コース。わんちゃんと一緒だったり… 戸栗美術館、松濤美術館、TOMなど美術館も近くに点在しています。」と書いていることから、松濤(日本一の高級住宅街です。念のため)に自宅があることがわかる。
そこにすでに関心空間に登録していた山形浩生氏が、キーワードのコメント欄でリリカさんとやりとりしたり、リリカさんの登録したキーワードに呼応するようなキーワードを登録していたり、随分夢中になっているなという印象だった。山形浩生が夢中になるくらいリリカさんの知的レベルが高かったのだ。
(訂正:最初「リリカさんの後関心空間に登録した」「現在すでに退会している模様」と書いたが今でも登録していた。また登録日は2002年10月28日とあるのでリリカさんの前ですね)
山形氏とリリカさんのやりとりの痕跡についてはペア執筆の教科書や理論などのコメント欄を見ると分かりやすいかも。リリカさんが退会しているのでリリカさんのコメントが抜けているが、山形氏のコメントは「……ねいちゃん、年齢詐称してない? なんで高校生がモリソン=ボイドを。」とか、「(チッ、いやみなガキだぜ。そんなに有機化学が好きならそのうちベンゼン環で簀巻きにして、漬け物にでもしてくれようぞ)」とか。CLASHさんという人はこのやりとりを以下のようにまとめている。
図らずも弱点である化学領域にテキを引きずり込んで痛烈なトラウマパンチを喰らわせ、更に一気にテキのホームグラウンドの一つである「経済学」に踏み込んで、その世界で神と称えられるアダム・スミスを誤用したふりをして相手のスキを誘い、安寿と厨子王でフェイントを仕掛けておいて、経済学を越え実社会的にも20世紀最大のビッグペアであるマルクス・エンゲルスでとどめを刺した。これはリリカさんの完全勝利です。
その後彼女は個人サイト「私家版」と有名になったはてなダイアリーを開始した。
archive.orgによると「私家版」(文字コードをShift_JISにすると読める)は2003年2月開始と更新履歴にあり、はてなダイアリーは同年10月開始みたい。はてなで書き始める以前に関心空間のブログサービス(といってもpermalinkやコメントやトラックバックはない、昔ながらのweb日記に近いようなもの)で少なくとも2003年1月から4月の間には日記を書いていて、その後はてなに移行したようだ。一旦は中学からのエスカレーターで(聖心の)高校に進学したが、はてなダイアリーに移行する前にどういう理由でかアメリカに引っ越し、ボストンの高校に転入している。
「ユリイカ」にも掲載
はてなダイアリーでの彼女の活躍ぶりは『ユリイカ 2005年4月号 特集 ブログ作法』で、各分野の面白いブログを紹介するという「ブログ・ガイド100@2005」内「文学?」というジャンルで近藤正高氏が詳しく紹介している。
ちなみに、ユリイカのこの号では、小谷野敦がmixiについて書いていたり、はてなダイアラーの座談会があったり、稲葉振一郎が黒木掲示板について書いてたりして楽しいのでブログ界隈の話題が好きな人は買うといいと思うよ! 私が始めて買ったユリイカはこの号だった。それ以前はユリイカという雑誌は視界に入ってない感じだったけど、その後しばらく文化系女子特集とかネット親和性の高い特集を連発したので買うようになり、その後また路線を変えたようだけど今でも特集によっては買っている。
さて、近藤氏によるリリカさんの紹介は以下の通り。
10代のブログといえば、リリカという女子高生による「リリカの仮綴じ〆」というブログについても紹介しておきたい。リリカは、アメリカのハイスクールに留学中というお嬢様ぶりに加え、その文章では哲学や社会学などをめぐる言説が次々と展開されるとあって、一部では高い人気を博した。だがそのあまりにも現実離れしたキャラクターに対しては、彼女は本当は何者かが演じる虚構の存在なのではないかという声も上がった。なかでもブロガーたちの言説をウォッチする2ちゃんねるの「新blog論壇スレ」では昨年の夏頃、彼女の正体をめぐって議論が過熱し(なぜかリリカは翻訳家の山形浩生だとする説まで飛び出した)、ついにはリリカのブログでの一部の記述や写真などは、他サイトから転載したものではないかという指摘が書き込まれるにいたる。「リリカの仮綴じ〆」が突如として閉鎖されたのはその直後のことだった。(ちなみにこのスレッドでは、それ以前にも「ヘルシー女子大生日記」というブログの書き手の正体探しが行われ、サイトを公開制限に追い込んでいる)。
やはりリリカは実在しなかったのか? それを確かめるすべは何もない。しかしあのブログの読者には、どこか彼女をヴァーチャルな存在として楽しむ向きが多かったような気がする。リリカの活躍した同時期にはちょうど綿矢りさの芥川賞受賞が話題となっていたが、リリカの人気は、綿矢ら現実の少女作家に飽き足らない、もっと知的なアイドルを求める層が支えていたとは言えないだろうか。
閉鎖騒動
上記のユリイカの文章はリリカさんが消えた後に書かれているが、言及されている2chのスレッドというのは「新blog論壇スレ 2」。リリカさんが消えた前後だけ保存されているものが見つかった。(追記)その後スレッド全体も発見。分かったのは、ウォッチャーがリリカさんの正体の話題ばかりしていることだ。以下は時代も感じさせて笑ったのでコピペしておく。
♪はてなダイアリー、仮綴じのリリカです。
17歳で天才美少女、難しい本だって読んじゃいますって・・・・・
言うじゃな〜い。
でも、アンタ。哲学やら思想なんてやったって、今どき院生崩れにしか
需要がないですから。残念!
勉強してもただの屁理屈姉ちゃん、斬りっ!
このスレによると、Winsor Schoolというボストンにある女子校のwebサイトに載っている行事風景をリリカさんが日記で「私が通っている学校の行事です」という感じで掲載していた。このほか、リリカさんが学校から出されたReading ListとしてWinsor Schoolのサイトにあるのと同じものを「私家版」の方に転載(文字コードはShift_JIS)して日本語訳が出ているものを追加したり(まめだなぁ)、同じく学校のサイトにある行事の記述をほとんど和訳しただけのものがリリカさんの日記に載っていた、というのもあった。
ちなみに、Winsor SchoolのTuition(学費)は$29,000とのこと(2008年現在)で、1ドル100円として290万円(年間かな?)。かなりのお金持ちしか行けないお嬢様学校であることは間違いない。
「新blog論壇スレ 2」のタイムスタンプによると、2004年9月21日、学校に関するこれらの指摘が投稿されてから約30分後にははてなダイアリーがプライベートモードになり、約1時間後にははてなを退会、「私家版」も消えていたという。関心空間もほぼ同時に消えたようだ。2002年11月の関心空間開始からほぼ2年、2003年10月のはてなダイアリー開始からほぼ1年だった。
そのときのkanoseさんの反応。確かに、学校に関する元ネタが追求されたとたんに消えてしまうというのでは、実在を疑われても仕方がないだろう。でも個人的には(細かい部分で虚偽はあったとしても)ほぼ公開していたプロフィール通りの女の子がいたんじゃないかと思っている。いや思いたい。
このプロフィールによると1987年3月生まれとのことなので、現在21才で、松濤の超お金持ちのお嬢様で知的な女の子が、日本かアメリカかヨーロッパか、そのどこかにいると思った方が楽しいじゃない。大学では何を専攻し、どんな職業に就くんだろうか。それともこういう階層の女の子は今でも働かないのかなあ。25ansに載っててもおかしくないような家庭のはずだけど。
リリカさんを取り巻くコメント者たち
これからは思い出話モード。
彼女の日記にはコメントをつける人が多く、リリカさんがまめに返事をするので、非常に濃ゆい日記コミュニティができていた。たとえば2004年6月の様子を見ればその盛況ぶりが分かるだろう。
kanoseさんは取り巻き説を否定したけど(私の記憶でもそんなに濃く関わっていなかったと思う)、そのほかの「Ririkaの思い出:「はてなアイドル」の系譜」で言及されている人たちは、取り巻きって言うと語感が良くないけど、当時彼女のブログに密接に関わっていた人たちであると思う(この中でrokazという人だけ知らないが、他の人は私の記憶にもある)
当時まだ博士課程の大学院生であったsivadや、みずからの知的活動によってひきこもりの地位を全力で擁護しようとしていたueyamakzk、その他にも現在なお残るブロガーである rokaz/kagami/svnseedsらも既に多くの読者を抱えていた。このどのひとたちも、 Ririkaとコメント・トラックバックを通じて関わっていた存在として私が認知していったものである。
また「Ririkaの〜」には「いまは消えたが朱雀正道がいた。」とあるが、id:sujakuさん(はてなは退会済の模様)として記憶しているこの人がリリカさんに最も密接にコメントしていたのではないか。はてなキーワード解説によると写真家・ライター。そして個人サイトはこちらだけどここ数年更新してないみたい。もっと有名なのは漫画家岡崎京子のだんなさんであるということでしょう。岡崎京子年表では1990年に「写真家/ライターの朱雀正道氏と結婚。」とある。また岡崎京子の交通事故についてまとめたサイトでは「岡崎京子さんが1996年5月19日18時半、東京都世田谷区の自宅の近くで夫の朱雀正道さんと散歩中に飲酒運転の4WDにはねられる」とある。
私がコメントしたときの話
私にとって一番印象深いのは、自分がコメントしたときのことだ。いつだったか忘れたが彼女の日記に初めてのコメントをした。それは日記の内容につっこみを入れるようなものだったのだが、「ぼくのリリカたんをいじめるな!」みたいな取り巻きが出てきて、延々と反論されて自説を説明させられた。おかげで、最初はもっと短いコメントをちょっと残すだけにしたかったのに、長々と自説を述べて粘着したみたいになってしまった。最後にリリカさんが出てきて「yucoさんのおっしゃることは全く理解できません」と言われた。
それで、私はそれまでに(取り巻きに対して)かなり説明したのに、難解な哲学書を読みこなすリリカさんに対して意味が通じないことしか書けないのかと思い「言いたかったことが通じなかったことは残念ですが、もう諦めます」と書いて書き込みをやめた。そのやりとりがarchive.orgにないかと思って探してみたけどなかったのでこれは記憶だけで書いている。その後しばらくして、彼女のブログはコメント欄を閉じて、その後、例の閉鎖騒動があったのだった。
お嬢様ならではの金銭感覚
松濤のお嬢様なんだから当然だけど、知的レベルの高い日記の合間合間に、一般人とはかけ離れた金銭感覚がうかがわれた。今も読める2004年6月1日の日記には、芸者遊びの思い出が書かれている上に、ニューヨークでのお買い物の様子が以下のように書かれている。
ティファニーで(中略)新作のブレスレットにひとめぼれして、卒業祝いにおねだり。ベルトの形をプラチナで模ってて留め金にダイヤが散りばめられてる。マテリアルとデザインのギャップがおもしろくて。手首に銀色のベルトを巻いてるハードな雰囲気。
Van Cleef Arpels の、芥子の花みたいなルビーの花びらで囲まれた中心に、小指の爪くらいのちっちゃな時計。あぁ、なんて冒涜的に非実用的なの〜うっとり〜。これに決め!
と、女子高生が1日のうちにティファニー(といっても高いのから安いのまであるけど、プラチナとダイヤというところから高いラインと推定できる)とヴァンクリ(超高級ブランド)の宝飾品をおねだりですよ!両方とも数十万、へたすると100万超えると思う。
私がリリカさん=ネカマ説とか中の人は山形浩生説を信じないのは、このへんの宝飾品とか贅沢品に対するセンスは男性には出せないと思うからだ。
それから、「脳内無差別発注:東京永久観光」から孫引きするけど、
《こっちにいると、amazon に発注してから届くまでに 2、3週間かかるでしょ。だからいっぺんに50〜100冊くらいざっくり注文することになって、自分の目で確かめて選ぶのに比べると、ハズレ率が10倍くらいになっちゃうから、お気に入りを絞るなんて贅沢なことはやってられなくて。》(『リリカの仮綴じ〆』より)
アメリカから日本語の本を買うのに、amazonから50〜100冊いっぺんに頼んでいたらしい。これに対しては引用者のtokyocat氏の、
お気に入りを絞るという贅沢の前に、私がしてみたい贅沢はもちろん、死ぬまでに一度でいいから本を50冊〜100冊いっぺんに注文してみるという贅沢だ。さらには、それ自体が贅沢だなどとはひとつも口にしないような贅沢だ。
というコメントに深く同意するし特につけ加えることはない。
コミュニケーションに過敏な態度
彼女のはてなダイアリーには「★リファラはほぼ見ません。」とあった。「ほぼ」というところが微妙な心理を伺わせる。また、日記についたコメントにはほぼ全部レスしていたと思う。さらに、「はてなダイアリーをはじめるにあたって」(文字コードはShift_JIS)。という文章でも、自分のコミュニケーションスタイルについて詳しく説明している。
さらに、2chのblog論壇スレではリリカさんのことがしばしば話題になっていたが、2chは見ないと書いていたと思う。しかし、閉鎖騒動の段で書いたように、2chで学校のサイトから写真などを転載していることが指摘されたあと30分程度でプライベートモードにしていたのだから、むしろ頻繁に見ていたのだろう。
私は見ていて、彼女はコミュニケーションや自分への言及に対して丁寧すぎ、マメすぎ、気にしすぎていて、こんな風ではさぞ疲れるだろうなぁ…と思った記憶がある。
その他覚えていることもろもろ
- 3月のリリカさんの誕生日に、ディズニーの白雪姫のコスプレ衣装を着てパーティをし、写真を掲載した(もちろん顔は出さない)。さらに特注で白雪姫の形をしたケーキを切り分けて食べていた。確か、白雪姫の人形の周りにスカートを模したケーキがくっついている形のもの。ケーキを切り分けると裸の脚が出てきてエロティックだった。(こういうディテールがあるからネタだとは思えないんだよね…。)→リンク
- 残っている日記を見てもわかるように、「Wy」なる物理専攻の恋人っぽい男性と「夢のストーリー」と題したチャットログのようなものをたびたび載せていた。私はあんまりまともに読んでなかったけど、HTML書くの大変そうだなーと思って見ていた。時々タグが閉じてないとかコメント欄で指摘されている。
- 時々「○○でしゅ。」みたいな赤ちゃん言葉を使う(個人的には、こういうぶりっ子っぽい言動と高度に知的な内容のギャップが山形浩生ファンサイトをやっていた玲奈さんと共通する感じで、この2人が同一人物であるとする説が出る原因の1つだと思う)
- その玲奈さんが管理していた山形浩生ファンサイトの掲示板「山形浩生勝手に広報部:部室」にも発言していた(その1、その2。もっとあるかも)
- 確か誕生日記念と題して、1日間くらいだけ顔写真をアップしていた。割と大人っぽい顔立ちだった気がする。(kanoseさんにつっこまれたので追加。結構みんな保存しているらしい(笑))
- 閉鎖後しばらくして、id:mRirikaでリリカさんらしき人物のダイアリーが始まった。これは短期間でプライベートモードになってしまい、archive.orgにも残っていない。内容は、id:Ririkaだったころの知的レベルの高さは伺えず、本当に同一人物が書いているのかどうかすら怪しいものだった。プライベートモードのメッセージには、mixiに移ったと書いてあるが、彼女のmixiのアカウントらしきものも見つけた。mixiの方は、日記は友人まで公開になっていて、ずっとログインしていないみたい。そちらのプロフィールにもわざわざ「足あとは半永久的にチェックしません」と書いてあるのが彼女らしい(笑)。
2008-05-14 (Wed) [長年日記]
#1 KASPER TRANBERG JAPANESE QUARTET&『白鍵と黒鍵の間に』(南博)先行販売@新宿ピットイン
KASPER TRANBERG JAPANESE QUARTET:キャスパー・トランバーグ(Tp) 南博(P)水谷浩章(B)外山明(Ds)
私はキャスパー・トランバーグという人は元々知らなくてピアノが南博だから行ったという感じ。キャスパー・トランバーグはスウェーデン人のトランペッターで、MCの時は気のいい外人さんという感じで「サクい」(すごいという意味らしい)という日本語の造語を連発して笑っていた。
演奏は南博トリオと違って前衛的。南さんがピアノの鍵盤の裏側を叩いたりキャスパーさんがトランペットの指で押さえるところをカタカタ言わせたり息を吹き込んで出るか出ないかの微妙な音を出したりしていた。
会場で、南博のエッセイ集『白鍵と黒鍵の間に』が翌日15日から発売なんだけど先行販売していたので買って、開演前とか休憩時間に早速読んでいた。終了後にはサインももらった。この本、帯は菊池成孔で「この本は、僕のどの本よりも面白いです。」とある。
面白く読みやすいので休憩時間のうちに半分近く読んでしまった。ちょうど2004年に菊地成孔の『歌舞伎町のミッドナイト・フットボール』をライブ会場で買ってこういう風に休憩時間に一気に読み進めたことを思い出した。
本書中にある、「憧れていたピットインの朝の部(というのが当時あったらしい)で演奏できるようになった。舞台は客席から10cm程度高いだけだが、その向こう側とこちら側では大きな違いがある」というくだりを読んでいて、ちょうど私の目の前に(最前列に座っていたので)その10cmの段があって、ここで読めて良かったと思った。あまり明るくないので目の健康にはよろしくないと思うけれど。
しかし、mixiでの南博コミュの書き込みによると、この本を指定書店で買った人のみ行けるトークイベントが行われるらしいので、トークイベントに行きたい人は買うのをしばらく待った方がよさそう。私も知っていれば買わなかったのに…。
2008-05-11 (Sun) [長年日記]
#1 『ジェイン・オースティンの読書会』@Bunkamuraル・シネマ
私が以前参加していた某読書会メンバーで集まって、読書会をテーマにした映画を観るというイベント。その後はBunkamura内のロビーラウンジにて「ジェイン・オースティンの読書会」公開記念メニューのスパークリングワインとティースタンドをいただきつつ3時間くらいしゃべり倒した。
私は以前、原作の小説を読みかけていたけど途中で放置してしまった上にもう内容をほとんど覚えていない状態で観ることになった。日曜日にも関わらず会場は7割くらい?の入りで、別の部屋で上映していた『ラフマニノフ』の方が人気が高かったみたい。
ジェイン・オースティンの小説は主なものが6つあるが、私はそのうちの4作(『高慢と偏見』『分別と多感』『エマ』『マンスフィールド・パーク』)は読んでいて、残り2作(『説得』『ノーサンガー・アベイ』)はあらすじは知っているという状態。
これは、ジェイン・オースティンの小説を知らなくてもいいけど、知っていると、映画のこの人とオースティン小説のこの人がキャラかぶってる、みたいな楽しみ方ができるので、できれば3作くらいは読んでから観るのがお勧めかも。
この映画はどうしてもオースティンの小説と比べてしまうようにできていると思う。それで比べてみると、オースティンの世界にはいわゆるDQN(『高慢と偏見』のエリザベスの母や妹)とか腹立たしい意地悪キャラ(同じく『高慢と偏見』のダーシーの叔母とか)が出てくるけど、この映画は基本的に悪い人はいないし、あえていえばブルーディーの母親はDQN入ってる(これはエリザベスの母親を意識しているのだろう)けどちょっと出てきてすぐ死んでしまうのであまり目立たない、基本的にいい人ばかりだ。みんないい人なりに恋愛に悩みながらも最後はうまくまとまるという感じ。それは軽やかなりの魅力はあるのだけどいささかパンチに欠けると取る人もいるかもしれない。
登場人物では、フランスかぶれの文化系女子(職業はフランス語教師)のブルーディーの髪型(短めのおかっぱ)やフレンチ系のファッションが可愛かった!影響されて髪型をおかっぱにしたくなりました。原作小説ではそこまで可愛いイメージではなく、服装ももっと地味な描写だそうですが。
みんなでドレスアップして図書館でディナーをとるシーンがあり、こういうイベントがよくあることなのかどうかよくわからなかったのだけど、「library dinner」でぐぐるとたくさん出てくるので、少なくとも英語圏ではポピュラーなイベントらしいことが確認できました。適当に読んでみると、スピーカーを呼んで文学についての話を聞きながら図書館でディナーをとるみたい。
読書会の場所も参加メンバー各自の家の持ち回りだったり海辺だったりで、アメリカの(西海岸かな?)あたりの家でお客の5人くらい問題なく寛げるゆったりした作りや最後の読書会会場となった海辺の様子など、それぞれ魅力的な場所だった。
原作小説のあとがきによると、読書会というのはアメリカでは頻繁に行われているイベントで、プロの読書会リーダーなる職業まであるという。図書館ディナーといい、本を囲む状況が日本とちょっと違っていてうらやましい点もある。日本でも新刊の発売に際して書店などでトークイベントやサイン会があったり、読書会といっても「源氏物語を読む」みたいなのはあるけど、オースティンみたいな若干古め〜現代小説でも新刊ではないものについてあれこれ話したり話を聞ける会みたいなのがもっとあるといいなあと。
これからジェイン・オースティンの小説を読むなら&関連本
ちなみに、これからジェイン・オースティンの小説を読むならちくま文庫で出ている『高慢と偏見』から入るのが一番お勧め。ちくま文庫の中野康司訳は最も新しい訳なので読みやすい。また『高慢と偏見』はヒロインのエリザベスが魅力的でストーリーもまあ典型的だけど楽しく読めると思う。私は最初に読んだときは睡眠時間を削って一気読みした。気に入れば同じちくま文庫の中野康司訳で『エマ』『分別と多感』などに進むといいと思う。
わたしはこの3冊のあとに文庫で出ていることを優先して『マンスフィールド・パーク』に進み、そこから進んでいないという状態。『説得(説きふせられて)』は岩波文庫版があるんだけど、私が読んだ『マンスフィールド・パーク』と同じ大島一彦訳版の方が訳の評判がいいので同じ中公文庫で出ないかなあと思ったり。この版元はキネマ旬報社で、ここから別の訳者で『ノーサンガー・アベイ』も出ている。
そのほかオースティンはさすがに関連書籍が多く、私が持っているものだと『ジェイン・オースティンの手紙』はタイトルのままの書簡集とか、当時のファッションを紹介する『ジェイン・オースティン ファッション』は当時のファッショングラビアであったファッション・プレート(もちろん写真はないのでイラスト)が可愛いかったり(ちくま版の『分別と偏見』『エマ』の表紙はこのファッションプレートを使っていることが本書で分かった)とか、評伝の『ジェイン・オースティン伝』は分厚いですが読み応えがあったよ、とか。
2008-05-02 (Fri) [長年日記]
#1 シュルレアリスムと写真 痙攣する美/知られざる鬼才 マリオ・ジャコメッリ展/紫禁城写真展@東京都写真美術館 をまとめて見てきたよ!
チケットは3枚まとめて買うとちょっと安くなるみたい。
シュルレアリスムと写真 痙攣する美
まず「シュルレアリスムと写真」から見た。現在ならコンピューターで画像を加工して超現実的な感じにすることはいくらでもできるんだろうけど、シュルレアリスム運動が盛んだった当時、しかも絵画ではなく写真でシュルレアリスムする人たちはフィルムでそれをやるわけで、ソラリゼーションとかフィルムを重ねたりとか、いろいろと技が必要だったのだなあと思う。
シュルレアリスムな写真が絵画と違うのは、街並みとかファッションとか室内装飾とか、実際の物を撮るのでより時代性が現れやすいということで、今見るとクラシックだけどシュールというこの雰囲気は個人的に好みだ。
個人的にリー・ミラーの情報をここ数年来なんとなく追っているので(mixiでリー・ミラーのコミュニティを作ったくらい)、マン・レイがリー・ミラーの眼の写真を切り取ってメトロノームの針に貼ったオブジェが見られたのは良かった。
パリで活動し、パリの街を撮ったりした写真家のものが多かったが、少ないが植田正治など日本人のものもあった。それから名前を知らなかったが瑛九という人のも結構出ていた。
またこの展覧会のパンフレットは、『AVANTGARDE VOL.5特別号 シュルレアリスム特集』ということで、AVANTGARDEという雑誌の特別号(ムック)として出ている。
知られざる鬼才 マリオ・ジャコメッリ展
次に見たのはマリオ・ジャコメッリ展。ナディッフ代表 芦野公昭氏による展示解説というのをちょうどやっていたのでそれを聴いた。GW中だからか、説明を聴きに来た人だけで50人以上はいてかなりの人口密度。
マリオ・ジャコメッリは印刷工をしながら活動したアマチュア写真家で、2000年に亡くなっている。彼の作品を日本でまとめて見せるのは初めてで、展示では遺作から時間を遡るように初期の作品を見せるようにしたという。
彼の写真は全部白黒で、そのほとんどは強いコントラストで人物や風景を描く。現像にも相当手を加えている様子で、白っぽいところを真っ白にしてしまったりしているみたい。また写真は基本的に1枚1枚にはタイトルはついておらず、シリーズになっていて、シリーズの名前は詩から取ることが多い。
初期のシリーズである(展示では順路の最後にある)ホスピスの死期が迫った老人たちの様子は凄惨だ。芦野氏の解説によると、この写真群でイタリアの福祉行政がゆきとどいていない感じなのを示してしまったせいで、イタリアの文化行政で取り上げられない人になり、「知られざる」という形容詞がつく人になったとのこと。
有名なシリーズとして、真っ黒いマントを羽織った司祭たちを撮った「私には自分の顔を愛撫する手がない(通称:若き司祭たち)」がある。このシリーズの1枚は須賀敦子の『コルシア書店の仲間たち』に出てくる。今なら『須賀敦子全集〈第1巻〉』でも読める。私が持っているのは全集の方。
その写真のことは、以下のように描写している。
いちめんの白い雪景色。そのなかで、黒い、イッセイ・ミヤケふうのゆるやかな衣服をつけた男が数人、氷の上でスケートをしている。まんなかのふたりの人物は、たのしそうに笑いながら、ひとりはこちらを向いていて、もうひとりは、横顔をみせ、ふたりのマントが、ふしぎな三角形をえがいて風に吹かれている。右はしのずっとうしろに、これも黒い、先端にポンポンのついた毛糸の帽子をかぶった男が、ほとんどふたつ折れになった格好で、むこうに滑っていく。どういう角度から撮ったものか、その帽子ぜんたいが、とがった鉛筆のように細まって写っていて、それがスピード感のあるその男の姿勢とあいまって、なにか、いたずらを発見されて遁走中の小悪魔といった、奇妙なおかしさがある。
須賀敦子は、この写真に写っている司祭のひとりが友人のダヴィデであること、この写真のシリーズ名が彼女に親しみのある詩だったことに触れ、それからダヴィデの思い出話につづいていく。
私はこの写真というのがこのシリーズで何枚かあるうちのどれだろうかと思い、「右端にとがった鉛筆のようなポンポンのついた毛糸の帽子が写っている男」のいる写真を特定した。ということは写真の真ん中あたりにいるこの人がダヴィデなのか、と思った。
【5/12追記】
あとから指摘されたのだけど、『コルシア書店の仲間たち』に出てくる写真は現存しても写っているのがダヴィデとは限らない。きちんと計算すると撮影年代とダヴィデの年齢にずれがあり、被写体がダヴィデという部分は須賀さんの創作という可能性がある、と指摘された。
ちょうど少し前、5月4日の日経新聞22面に須賀さんの作品はエッセイ風だが、実はかなり創作が入っており、エッセイ風小説とも呼べるようなものだということが書いてあった。これを読んでいながらその可能性に気づかなかったのはうかつだった。
紫禁城写真展
写真美術館の解説より
宙の中心とまでいわれ、500年に渡って栄華を極めた中国「紫禁城」。1911年までは明・清24代にわたる皇帝の住居であり、政治の舞台として世界最大の皇宮でしたが、当時は一般の人々が立ち入ることは許されず、秘密のヴェールに包まれていました。
そして1900年にその姿を撮影したのが、千円札に描かれた夏目漱石の写真でも知られる日本人写真家の小川一真です。太和門、中和殿、乾清宮・・・、プラチナを使った美しく貴重なヴィンテージプリントが織り成す小川の写真を、人気中国人現代作家、候元超が撮影した現在の故宮の写真とともにご紹介いたします。
入り口のあたりでは1900年に小川一真が撮ったものと現在の写真が並べてあるんだけど、昔の写真の方が現在の写真よりちょっと荒れた感じ。展示の解説として、小川一真のコメントで、「写真を撮った当時は数十人の宦官が紫禁城に残っていて、撮影の邪魔をした。あるときは足場を縛っていた縄を夜のうちに切ってしまい、翌日その足場に乗って撮影しようとしたら足場が崩れ、落ちて死ぬところだったが身体が縄に引っかかってなんとか助かった」みたいなことを書いていたのが面白かった。
そして現在の写真と比べる限り、紫禁城はかなりよく保存されている。だから、写真で見た過去の姿がもう二度と見られない姿というわけではないようだ。だとしたら、白黒で細部が分かりづらい古い写真よりも、現物を自分で見てみたい。wikipediaによると現在建物は順次修復中らしいけど、修復が済んだら一度実物を見にいって「ラスト・エンペラーごっこ」がしたいぞと思うのであった。
2008-04-30 (Wed) [長年日記]
#1 『ゲームの規則』@Bunkamuraル・シネマ
amazonの正規版(?500円DVDではない方)の紹介より
フランス映画界の巨匠ジャン・ルノワール監督の代表作の1本だが、我が国では製作後43年を経て、復元された完全版が公開された。『ゲームの規則』というタイトルは、ルノワールによれば「人が社会生活の中で―その中で押しつぶされまいとする限り―守らなければならない規則」とのこと。 大西洋を23時間で横断した飛行家アンドレ、その彼が想うラ・シュネイ公爵夫人クリスチーヌ、夫ロベールと愛人ジュヌヴィエーヴ、ジュリユーの親友でクリスチーヌの幼なじみであるオクターヴ(ジャン・ルノワール)といった面々がコリニエールを舞台に、恋愛騒動を繰り広げる。 堅苦しそうな印象を受けるモノクロ映画だが、実はいつの時代も変わらない、惚れたハレたの騒ぎを描いた、すこぶる楽しいラブコメディ。上流階級が登場する作品ゆえ、豪華なセット、華麗な衣装など見どころは少なくない。(斉藤守彦)
いやー難しかった。上記の紹介には「惚れたハレたの騒ぎを描いた、すこぶる楽しいラブコメディ」なんて書いてあるけど、確かにいろんな人が色恋沙汰を起こしていろいろあるけど、銃を振り回す森番が出てきて、最後は人が死ぬし、少なくとも『恋多き女』みたいな楽しいラブコメディじゃないよ。この手の紹介文って大ざっぱな紹介には便利なので使うけど、必ずしも正しくないね。
登場人物が多くてスピードが速いので話についていくだけで大変。観たあとで、1カット単位で解説が入っている『ユリイカ 2008年3月臨時増刊号 総特集=ジャン・ルノワール』を読んでやっと分かったという感じで、正直言って楽しんで見られたという状態ではなかった。
ルノワール+ルノワール展では、この映画の中の狩猟シーンと、猟銃を持った少年(この映画の監督のジャン・ルノワールだったかな?)の絵(ウィキメディア・コモンズで探したが、見つからず)を並べて展示していた。
思ったこととしては、オクターヴ役はジャン・ルノワールだったのか、監督がこんな出ずっぱりの中心的な役で映画に出るの珍しいよな(『ユリイカ増刊号 ジャン・ルノワール特集』を読むまで知らなかった)とか、やっぱり中心的なヒロインであるクリスチーヌは夫も含めると3人の求愛者がいるなということ。この3人というのは、他のルノワール映画『恋多き女』『フレンチ・カンカン』『黄金の馬車』でも同じなので、なんか意味があるのかなと。
まそんなわけで、ついていくだけで精一杯だったので、次に楽しんで観られる機会があれば、感想はその時に…。


ツッコミ入りRSS

Before...
# yuco [リリカさんからコメントあったのですかー。 正体が話題になっている人からコメントがあったら、IPアドレスとか気になる..]
# なつかしい [そうほんとにアメリカからのアクセスなのかどうかって点で気になって、んま、先にコメントした通りアメリカからでは無かった..]
# TY [yuco さんが書き込んでいたとき(宮台の自慢話うんぬん)で途中から yuco さんの意見を引き継いで議論してた T..]
# yuco [ありがとうございます。実はfujisawamasashiさんが、このコメントのやりとりをすでにブログにアップしてくれ..]
# TY [そうでしたか.こちらもあのあと, http://web.archive.org/web/*/d.hatena.ne..]